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東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)1456号 判決 1966年9月24日

原告 角田一朗

右訴訟代理人弁護士 宗宮信次

同 川合昭三

被告 沢屋本店こと 遠藤安一郎

右訴訟代理人弁護士 根本松男

被告 遠藤恭三

主文

被告らは原告に対し、各自金五〇万円及びこれに対する昭和四〇年八月四日以降完済までの年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

この判決は、原告が被告らそれぞれのために各金二五万円の担保を供したときは、その担保提供を受けた被告に対し仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文の第一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

一、次の約束手形は、被告遠藤恭三の振出及び被告遠藤安一郎の裏書(支払拒絶証書作成義務免除)にかかり、原告が所持するもので、満期に支払のため支払場所に呈示された。

金額 金五〇万円

満期 昭和四〇年八月四日

支払地及び振出地 東京都中央区

支払場所 株式会社三和銀行京橋支店

振出日 昭和四〇年五月七日

振出人 遠藤恭三

受取人兼第一裏書人 遠藤安一郎

被裏書人 原告

二、よって原告は被告らに対し、各自金五〇万円及びこれに対する満期以降完済までの年六分の割合による法定利息の支払を求める。

三、<以下省略>。

理由

一、原告主張にかかる手形要件及び裏書の各記載のある本件手形が被告遠藤恭三の振出にかかるものであることは、原告と同被告との間に争いがなく、原告と被告遠藤安一郎との間においては証人横山栄の証言によってこれを認め得られる。

二、そこで、本件手形になされた被告遠藤安一郎名義の裏書が真正になされたものであるか否かの点について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第二号証と証人横山栄の証言を総合すると、被告遠藤安一郎と訴外横山栄とが代表取締役、被告遠藤恭三が監査役となっている訴外極東商事株式会社(この事実は当事者間に争いがない。)は、被告遠藤恭三との間にいわゆる融通手形を従来から相互に交換し、これによって同訴外会社が受取った手形は同訴外会社自体が第一の裏書人となることもあったが、又これとは別に白地の受取人欄を被告遠藤安一郎と補充し同被告個人が第一裏書人となったこともあり、後の場合には、同被告が非常勤で出社することが少なかった関係上、常勤の代表取締役である訴外横山栄が当該手形を同被告の自宅に持参し、同被告の記名捺印を得た上でこれを割引に廻すという形がとられ、右の各裏書によって得られた割引金は同訴外会社の運営資金にあてられていたことが認められる。

(二)  証人大槻伝の証言によると、訴外大槻伝は、訴外横山栄からの依頼により被告遠藤安一郎個人名義の振出もしくは裏書にかかる手形を十数回にわたって割引いたことがあり、これらが従来何等の故障なく決済されていたこと及び右の振出もしくは裏書に際して押捺されていた同被告名下の印影の形状は明確に認定し難いけれども、その「郡山市大町二沢屋本店遠藤安一郎」なる記名が本件約束手形に押捺されている右の趣旨の記名と同一の記名判により顕出されたものであることが認められる。

(三)  成立に争いのない乙第八号証と被告遠藤安一郎本人尋問の結果によれば、同被告は取引銀行に届け出ている印鑑とは別異の印鑑、それも通常市販されている出来合印(いわゆる認印)と同様の大きさ・形式の印鑑を用いて約束手形を振出したことがあること、又、右の乙第八号証に顕出されているそれと彼此同一の記名判によって押されたものであることがそれぞれ認められる。

以上認定の諸事実を念頭に置いて証人横山栄の証言を検討するときは、被告遠藤恭三が訴外極東商事株式会社に対し受取人欄白地で振出した本件約束手形を、右証人において被告遠藤安一郎の自宅に持参し、第一裏書人欄に同被告自身の手による記名捺印を得て、しかる後にこれを原告に交付して割引金を得たという趣旨の右証言(そのうち、捺印に用いられた印判を同被告が金庫から取り出したとの点に多少の疑問は残るが)は充分措信できるものと考えられるので、当裁判所は、本件約束手形になされた被告遠藤安一郎名義の裏書は同被告によってなされた真正なものであると認定する。この認定に反する被告遠藤安一郎本人尋問の結果は以上の諸点に照し何らかの記憶違いによるものとするほかないので、これを採用しない。

尤も、前記乙第八号証に押された被告の認印と本件手形になされた被告名下の認印とを対照すると、両者は別異の印判によって顕出されたものと認められるのであるが、先に認定したとおり、被告は平素手形取引に当り銀行届出印のほかに、これと異なる認印を用いたこともあるのであって、印判の使用について厳正を欠くところがあったことが窺われるし、なお、認印を何個か持ち合わせていることは通常ありうるところであるから右両者の認印が違うことを考慮に入れても前記の認定を動かすに足りない。

三、次に、本件約束手形が満期に支払のため支払場所に呈示されたことは被告遠藤恭三はこれを認め、被告遠藤安一郎は明らかにこれを争わないので自白したものとみなす。又原告がこれを所持することは当裁判所に顕著な事実である。

従って、被告遠藤安一郎の相殺の抗弁以外に何の抗弁もない本件では、同抗弁に理由がないかぎり、原告は裏書の連続によって本件手形の正当な所持人であると推定され、被告らはその振出人または裏書人として原告に対し各自本件約束手形金五〇万円及びこれに対する満期たる昭和四〇年八月四日以降完済までの年六分の割合による法定利息の支払義務があるものといわなければならない。

四、ところで、被告遠藤安一郎は、同被告が昭和四〇年七月一〇日原告に対して貸与した貸金債権金一五〇万円をもって前項の本件約束手形金債務と対当額において相殺する旨の意思表示をしたと主張する。しかし、この主張(自働債権の存在)に副うかのごとき被告遠藤安一郎本人尋問の結果は、これと証人横山栄の証言及び原告本人尋問の結果とを対比すれば、同被告の誤解に出たものであることが明らかであるからこれを採用しがたく、他に右の主張事実を肯認するに足りる証拠は見当らないので、右主張は採用の限りでない。

五、よって、原告の請求を正当なものとして全部認容することとし、<以下省略>。

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